第41回いばらきのくすり展
今回12年目‼キッザニアより歴史が古い茨城県病院薬剤師会のイベント「子供調剤体験」
茨城県病院薬剤師会 くすり展担当 新井 克明
毎年10月17日から10月23日までの1週間は、医薬品を正しく使用することの大切さ、そのために薬剤師が果たす役割の大切さを一人でも多くの方に知ってもらうために設けられた「薬と健康の週間」です。
茨城県は、「薬と健康の週間」の事業の一環として「いばらきのくすり展」を毎年開催しており、今年は令和元年10月20日(日曜日)イオンモール水戸内原・2階イオンホールを会場にして41回目を開催しました。そのイベントは、県内の製造所で生産される医薬品、医薬部外品、化粧品などを紹介する「製薬メーカー等の展示」、薬剤師が様々な薬の相談に応じる「くすりの相談所」、こども理科教室、クイズを解くことで楽しく薬の知識が身につく「クイズラリー」など楽しい内容が盛りだくさんです。さらに県内の中学生を対象に「医薬品の正しい使い方」をテーマに募集したポスターコンクールの入賞者の表彰式とその作品の展示、薬事功労者の表彰式なども行われました。
その中でも超目玉として人気を博しているのが、茨城県病院薬剤師会が小中学生を対象に行っている「調剤体験コーナー」です。このイベントは平成20年(2008年)から始めた企画で、今年で12年目になりました。
調剤体験コーナーは現在3つのブースに分かれています。
メインはもちろん「調剤体験」のブース。まず初めに白衣を着ます。子供たちに満面の笑みがこぼれます。記念写真をパチリ。薬剤師になりきります。そしてパソコンに自分の名前を入力して薬袋を作成します。次に色や形の違うラムネやミンツなどの駄菓子を薬に見立て処方箋に沿って調剤します。子供達は必死で同じ数のラムネの粒をカセットのマスの中に分配します。自動錠剤散剤分包機に分配した錠剤をセット。次はラムネの粉の計量。バーコードを読ませ散剤を計量。分包機に入れて分包開始。親も子供も食い入るように分包機の動きに見入ります。そして笑顔がこぼれます。最後に服薬指導です。「このお薬には怖~い副作用があるんですよ。」子供の表情が硬くなる。「それは・・・虫歯!です」種明かしでまたみんなの表情に笑顔がこぼれる。服薬指導でくすりの使い方や大事な情報が知らされます。「用法用量を守って食べ過ぎないようにね!歯をちゃんと磨いてね」、と。自分で作ったお薬(お菓子)と自分で作った服薬説明書の印刷された名前入りの薬袋をプレゼントされます。更に、オリジナルのかわいい子供用お薬手帳もプレゼント、その際に、お薬手帳の必要性と重要性を家族全員にインフォメーションします。
「科学で医療を支える病院薬剤師」のブースでは注射薬の配合変化を理解することができます。薬のかわりにグレープフルーツジュースを詰めた点滴を滴下させ、そのラインの側管から注射器で別の薬に見立てた牛乳を注入します。腕から薬剤が体に入っていく点滴模型は2つの薬剤がひとつになった直後に凝固して塊が体に入っていく様子がはっきり分かります。「このような困った組み合わせが実際のくすりでも起こります。」これが起きないように患者さんの見えないところで処方をチェックしたり処方変更を提案したりして、薬剤師が患者さんを守っていること、その結果、常に安全で最良の注射や点滴が医師や看護婦さんの手で行われることを説明します。天ぷらとスイカを一緒に食べると下痢になったりするでしょう。だからその組み合わせは止めますよね。などと相性の悪い食べ合わせを例にしたりしてわかりやすく説明するようにしています。
「検査値って、どう見たらいいの?」のブースでは検査値の意味、読み方・活用方法を話します。腎機能、肝機能のはなし、薬の効き方には個人差があり用法や用量を決めるのに検査値がとても参考になること、この数値を基に患者さんに見えないところで薬剤師が薬の増量・減量・変更を提案して、薬の効果を最大限に発揮するようにしたり危険な副作用が起きないようにしていることを説明します。
これらの3か所のブースを回る間に、患者さんに適切な医療を提供するために行っている病院薬剤師の仕事内容を、日本病院薬剤師会が作成したパンフレットも用いて、各薬剤師が自分の言葉で説明しています。
この企画は、病院薬剤師の仕事を広く一般の方々に知ってもらおうという目的で始めました。しかし病院薬剤師の仕事が錠剤のピッキングや計量のみの単純な仕事だと思われはしないか?という危惧もあり、ただ楽しいだけのイベントにならないように特に注意を払いながら作り上げてきました。そして、新鮮さが欠けてきたらキッパリと何時でも止めてしまおう、とコアスタッフとは開始当初から相談していました。ところが、年に一度開催で毎年会場も変わるイベントであるにもかかわらずリピーターが多く、ふしぎに色あせません。それどころか、どこで開催されるのかを調べてわざわざ遠方よりおいで下さる母子のリピーターや、会場店のオープン時間の前から入口に並びオープンと同時にこのコーナーへ駆けてこられる親子も現れる(パチンコ店なみ?)など年々人気が高まるばかりです。薬学部の学生のなかには、この体験がきっかけで薬剤師を目指したという学生まで現れました。
参加者の子供たちを駆り立てるものは何なのか? それは薬剤師の仕事がそれほど魅力的でステキなものなのだと思うようになりました。
初めてスタッフとして参加してくれた薬剤師さんたちは、当日限りで初対面の親子連れに薬剤師の仕事を教えます。はじめはぎくしゃくしていますが次第に気合が入りだします。一期一会の出会いでわずか十数分の時間の中で子供たちやご両親の心をつかみ薬剤師に対する理解をつかみ取ります。責任者の私の役割は朝一番でこう指示するだけです。「くれぐれも事故の無いように!薬剤師の業務をこどもたちに体験させて説明してください。いつもの業務の中で考えている事や、自分の思いをどうぞこの場で自由に吐き出して下さい。」薬剤師免許を持った先生方の行動に関して注文は付けません。
試行錯誤の一日を終えて、翌日からは、また、自分の病院での仕事に戻りますがスタッフの薬剤師たちは自分の変化に気付きます。今までと業務の見え方が違ってきたことに気づきます。自分のしている仕事の意義、素晴らしさ、問題点、足りないところ、目標など。普段の業務の中では気付かない自分たち薬剤師の事をイベントという状態が気づかせてくれたのだと分かります。今では発案者の考えを通り越し、参加した薬剤師自身のフィロソフィー(philosophy)を変化させているという思わぬ方向に進化しています。
このプロジェクトは、むしろ薬剤師研修のイベントになっています。会場は毎年家族連れが多く、子供よりも親のほうが夢中になる場面も見受けられ、盛況な企画となっています。参加者からは、「薬剤師のことを全然知らなかった!」「病院薬剤師ってすごいですね」「頑張ってください」など激励の言葉も頂きました。
我々が手作りで行っている病院薬剤師の調剤体験コーナーの企画は、参加した一般の方々にも、主催者側の病院薬剤師にも、どちらにも有益性があり「顔の見える薬剤師」のイベントとして確実に成長を続けています。しかし、残念ですが2019年より茨城県の業務見直しにより2日間の開催が1日開催に縮小されました。それでも我々はこの人気が続く限り、今後も会員の皆様のアイディアをお寄せ頂き益々進化させていこうと考えております。
調剤体験 参加者:
子ども122人 大人82人(当日スタッフ14人)
企画:新井克明、柴田亨、高橋昌也、髙橋正明
協力:株式会社 トーショー、テルモ株式会社、ナガイレーベン株式会社